COVID-19はなぜ小児で重症化しにくいのか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクは、成人よりも小児の方が低いことが知られている。その理由の一部として、成人と比べて小児では、免疫の働きが強く、血管の状態も良いことを指摘した世界各国の研究データのレビュー論文が、「Archives of Disease in Childhood」に12月1日掲載された。

この論文の著者の一人で、マードック小児研究所(オーストラリア)のNigel Curtis氏は、「COVID-19の小児患者の大半は無症状、または軽症である。また、症状が現れても、たいていは発熱や咳、喉の痛み、味覚や嗅覚の変化程度ですむ。免疫抑制剤の使用など、通常は重症感染症のリスク因子となる因子を持っていても、COVID-19の重症化リスクが上昇するわけではない」と説明。「年齢とCOVID-19の重症化リスクとの関係についての解明を進めることは、予防や治療の向上につながる可能性がある」と話している。

Curtis氏らによると、さまざまな器官――特に、心臓や血管、リンパ管の壁を覆う内皮細胞は、加齢とともにダメージが増えて老化することが知られている。また、内皮細胞の傷ついた状態がCOVID-19の重症化に関連することも報告されている。同氏は、「傷ついた血管が、血管内での血栓形成を促して脳卒中や心筋梗塞を起こす可能性があることは分かっている。また、新型コロナウイルスが内皮細胞に感染して、血管に炎症をもたらすこともある」と話す。しかし、小児では、成人に比べて内皮細胞のダメージが大幅に少ないため、異常な血栓が形成されにくいのだという。

糖尿病や肥満などの慢性炎症に関連する加齢性疾患もまた、COVID-19の重症化に関与していると考えられている。それに加えて、小児では、免疫系の強化につながる生ワクチン(麻疹、風疹、ムンプスの混合ワクチンなど)接種後の経過期間が短いことも、COVID-19重症化リスクの抑制に寄与している可能性があるという。

論文の筆頭著者で、フリブール大学(スイス)のPetra Zimmermann氏によると、小児と成人では免疫系に大きな違いがあるという。「小児はより強力な自然免疫反応を示す。これは、新型コロナウイルスに対する最も重要な防御になる」と同氏は言う。

また、免疫記憶も新型コロナウイルスに対する防御として重要な要因の一つとみられている。Zimmermann氏は、COVID-19の小児患者では、他のウイルスへの感染も多いことを指摘。「何度もウイルスに感染することで自然免疫記憶が向上し、小児の新型コロナウイルス排除能が高まる可能性がある」としている。

さらに、喉や鼻、肺、胃などの常在細菌も、新型コロナウイルスへの感受性に影響するという。「細菌叢は、免疫の調節や炎症、疾患に対する防御において重要な役割を果たしている。小児は、とりわけ鼻にウイルスや細菌を保有することが多く、これらの細菌が新型コロナウイルスの増殖を抑えている可能性がある」とZimmermann氏は説明している。

このほか、小児では成人と比べて抗炎症作用のあるビタミンDのレベルが高い傾向にあることも論文で指摘されている。Zimmermann氏は、「COVID-19の重症化とビタミンD欠乏はともに、肥満や慢性腎臓病、黒人またはアジア系の人種であることなどをリスク因子とする。このことを考慮すると、COVID-19の予防あるいは治療にビタミンD補充が有用である可能性がある」と述べている。(HealthDay News 2020年12月8日)

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